前回の記事で、
経営者の意思決定(何かを決める)のに役立つ会計=管理会計に必要なことのうち、
1)毎月の試算表の不要な「でこぼこ」を直す(月によって数字が暴れてないか)
2)変動損益計算書に組み替える
について、解説しました。
「大事な数字を決めよう」が大きなテーマで、
3)管理すべき指標を決める (ここ大事)
4)そしてPDCAをまわす (やりっぱなしにしない)
についてお話します。
3)管理すべき指標を決める (ここ大事)
変動損益計算書に組みなおし、会社の状況の全体像がわかったら、次はここです。
管理すべき指標を決めること。
KPI(Key Performance Indicator)とも言います。
客数や単価、稼働率、案件数、ネゴ数・・・いろんな数字が会社にはありますが、
あれもこれも追うことは難しく、現場は混乱します。どれをどのように追っていくのか?
社員さんには、どの数字に着目してもらうのがよいか?
事例を使ってみましょう。
塾の経営者の例
たとえば、私が、塾を経営している経営者だとします。
もともと進学塾で塾講師をしていましたが、
自分がやりたいのは、進学塾ではなくて、
勉強がそれほど得意でない子どもたちに「勉強ができる」という成功体験を身につけてもらい、
将来の選択の幅を広げてあげたいと考えているとします。
今年の経営計画を立て、売上=客数×単価 ですから、
生徒数50人を確保したいと目標を設定します。
では、この目標を達成するためには、どうしていったらよいでしょうか。
生徒数50人を確保するために、
- ・Webサイトをつくってリスティング広告で生徒を募集
- ・近くの公民館を借りて、説明会をする
- ・もともとの進学塾の教え子たちから友人を紹介してもらう
という活動を考えました。
さて、これで、50人達成できるでしょうか。
活動と目標の距離感はどうか?
ひたすら人数を追うだけでよいでしょうか?
活動と目標との距離が遠くて、因果関係がよくわかりません。
目標と活動の間に、「そうなる理想的な状態」を挟みます。
生徒数50人
↑
そうなる理想的な状態
↑ ↑ ↑
活動 活動 活動
塾がたくさんある中で、ひたすら説明会や紹介依頼をしたところで、
生徒が集まるとは限りません。
どうなったら、生徒が集められるのか?その状態をまず決めてから、
活動を検討していきます。
理想的な状態はどんな状態かを定義する
今回の事例であれば、
そうなる理想的な状態は、
「塾なんて通ったって、気休めでしかないわ」という親の気持ちが、
→「この塾へ通えば成績が上がるものなのね」と納得している状態。
と定義することができます。
とすると、どんな活動をすればよいでしょうか。
「成績は上がるものなのね」と納得してもらうには、体験がいちばん。
中間テスト前に1カ月間無料で指導
すると、モニター生徒の成績アップ
その成功談をWebサイトでコンテンツ掲載
さらにリスティング広告で認知拡大
ここまでやれば、親が納得している状態が作れそうな気がします。
さらに、入会金無料キャンペーンで後押し。
生徒数50人
↑
入会金無料キャンペーン
↑
この塾に通えば成績が上がるものなのね(という親の納得)
↑ ↑ ↑
モニター生徒 →成功談掲載 →Web広告
成績アップ
↑
中間テスト前1カ月間
無料指導
とすると、私の会社が追うべき、大事な数字は何になるでしょうか?
- ・中間テスト前1カ月間無料指導の受講人数(大事な数字1)
- ・成績アップしたモニター生徒の人数(大事な数字2)
- ・Webサイトに掲載した成功談コンテンツの掲載数(大事な数字3)
となります。
ひたすら説明会を行うより、こちらの方が確度が高いですし、
日ごろの活動に落とし込めるので、社員さんにも伝えやすいです。
KPI設定のまとめ
このように、数値目標を設定したら、
それを達成するのに「望ましい理想の状態」を定義し、
そのために何をするか?を考えていくことが、遠回りのようで、近道です。
成果につながることに絞って、経営資源(ヒト・モノ・カネ・時間・情報)を投入できます。
そして、そのために何をするか?を「大事な数字」にして、日ごろの活動を計測していきます。
この「大事な数字」を、KPIと呼びます。
目標に対して、理想の状態を定義し、それを達成し得る活動を決める。
これが、本当のPDCAの「P」だと私は考えています。
管理会計で、本当に管理すべきは、財務数値ではなくて、活動です。
4)そしてPDCAをまわす(やりっぱなしにしない)
やりっぱなしにせず、振り返り・改善につなげるしくみが必要だと考えています。
大事な数字を決めたら、1か月単位で、
- ・どこまでその活動ができたか(活動の管理)
- ・数値目標にどこまで近づけたか(活動がどこまで成果に結びついたか)
を検証して、必要な軌道修正をしていきます。
たとえば、今回の新型コロナのように、通塾ができないのであれば、
オンライン受講の方法を、できるだけ障害を取り除いて、できるようにするなど。
設定した活動は、「これで理想的な状態にできるのでは」という仮説ですから、
実行段階で見えてくる「良い方法」は検討できるし、
新たな活動を設定してもよいですね。
活動と数字の因果関係を見るべし
どのくらいの売上で、利益が出たかどうかはもちろん大切ですが、
目標を達成し得る活動を管理することは、もっと大切だと思います。
試算表や決算書を見ても、「ようわからん」となってしまうのは、
活動との因果関係が、試算表や決算書からはわかりにくいからです。
数値と活動はセットで、考えていきたいですね。
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